「中らずと雖も遠からず」なんか字面だと、忍者が使いそうですよね。
そんな「中らずと雖も遠からず」使いこなせたらかっこいいし、頭もよく見えそうですね。
この記事を逃さず最後まで見終わった後には、中国古典の知識もつき、
「中らずと雖も遠からず」を自由自在に操れるようになります。
それでは、一緒に確認していきましょう!
今回の記事では「あたる」を「中る」と表記しています。しかし、「当る」の字で表記することがあります。
本記事で「中る」を使用したのは赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)の由来になった部分で「中る」と表記されていたためです。ご了承ください。
最近は、「中らずとも遠からず」という事も増えていますが、正確には、「中らずと雖も遠からず」です。
読み方 | 中らずと雖も遠からず(あたらずといえどもとおからず) |
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ローマ字 | Atarazu to iedomo tokarazu |
意味 | ほぼ正しいこと |
使い方 | ほぼ正しいが、完璧な正解ではないとき |
英文訳 | Your guess is almost right. または、That`s a near guess.
小西友七(監)・岸野英治(編)『ウィズダム和英辞典(第二版)』(三省堂、二〇一二)を参考 |
類義語 | 正鵠を失わず/中らぬまでも外れざりけれ |
中たらずと雖も遠からず(あたらずといえどもとおからず)
では由来の方から解説をしていきましょう。
「由来」『大学』
円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)によると「中らずと雖も遠からず」の由来は『礼記―大学』にあるとしています。では『礼記―大学』とは何か?
赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)によれば宋の時代まで、『礼記』の中の一篇であったとしています。その後独立しました。
また作者は不明であるとしています。内容については修身(道徳)や平天下(天下を落ち着かせる)などについての儒学の教えが書かれています。
赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)から白文を引用しました。意味は円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)より引用しました。長いので途中省略の形をとっています。
[白文]
「・・・心誠求心、雖不中不遠矣。・・・」(「大学」第五段、第一節より)
赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)より引用
【書き下し】
「・・心誠に之を求むれば、中らずと雖も遠からず・・・」
円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)より引用
【意味】
「家族を愛するような気持で政治を行えば、完全ではなくても庶民の気持ちに応えることができる」
円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)より引用
の様な意味になっています。ちなみに政治の話を省略した部分でしているので、政治の内容が登場します。
もう少し、「中らずと雖も遠からず」に詳しくなりたいという人のために少しつけ加えておきましょう。赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)の注釈を紹介したいと思います。
まずそれを説明する前に省略した部分を知る必要がありますなので、少し触れておきましょう。この部分の前文には、家族を正しく導くような人間でなければ、国を導けるようにはなれないと書かれています。
それを踏まえてもう一度「中らずと雖も遠からず」を考えてみましょう。赤塚忠『大学・中庸(新釈漢文大系2)』(明治書院、一九九二)によると「不中」は、国と家は違う部分があって完全に的中しているというこではないという解釈をしています。
また、「不遠」は目的から近いという解釈がなされています。つまり、国と家を治めるのは似ているという意味になります。
「意味」あと少し、もうちょっと
「中らずと雖も遠からず」の意味はほぼ正しいという意味です。
もう少し意味について掘り下げてみましょう
「ことわざのイメージ」
まず、的にあたってなくそれた矢を想像しましょう。そして矢をよく見ると全然検討ハズレの場所ではなくややそれたところに矢が刺さっていますそのように考えてみると。
あたってはいないけど惜しい所が想像できると思います。そうすると自然と意味が浮き上がってくると思います。
なので「的」にかすった矢をイメージするといいと思います。
ちなみですが
北原保雄(著・編)・加藤博康(著)『明鏡 ことわざ成句使い方辞典』(大修館書店、二〇〇七)によれば、「中らずと雖も遠からず」は「本来は「真心から実践するならば、完全にそれを成就できないまでも、ほぼ完璧に近い程度には達成できる」の意」と書かれています。
また「現在では専ら「的中はしていないが大きく外れてはいない」の意」と書かれています。
本来の意味の方も覚えておくといいかもしれませんね。
「語義」スイカ割り、数センチかする棒
「中らずと雖も遠からず」の中でもあまり見ない「雖も」そしてあまり「あたる」と読まない「中」を選んで調べてみました。今回も参考にした書籍は、長澤規矩也(編者代表)・原田種成・戸川芳郎『新明解漢和辞典(第四版)』(三省堂、二〇〇六)です。
「雖(スイ)」
「いえども」と呼んで
イ.~であっても(逆説)
この様に逆接を表す字です。
「中(ちゅう)」
「あてる」と呼んで
イ. 的にあてる
ロ. 目的を達する
ハ. そこなう、傷つける
<「当る」と「中る」の違い>
この「中らずと雖も遠からず」を調べると「当る」と「中る」両方で出てきます。では、二つの意味は異なるのでしょうか?
長澤規矩也(編者代表)・原田種成・戸川芳郎『新明解漢和辞典(第四版)』(三省堂、二〇〇六)によれば、「中」はこの様に書いてあります。「矢がまとにあたる、広く的中する意」とあり、「当」には、「彼と此とがぴったりあたりあう」と書かれています。由来からして元々の漢字は「中る」であったと思われます。ただどっちの意味でも取れないこともないので気にしなくてもいいのかなと思います。
また新村出『広辞苑(第六版)』(岩波書店、二〇〇八)の「あたる」の項目には「中る・当たる」二つの漢字で書かれているので、今はほぼ同じ意味だと思います。
「使い方」そっちじゃない、惜しい
「中らずと雖も遠からず」の使い方を会話形式で作ったので、一緒に見ていきましょう!
私の今回のテストの点数は何点だと思う?
55点かなぁ?
中らずと雖も遠からずだね。正解は、50点だよ。
すごいじゃない!前回なんて35点だったでしょ?頑張ったね!
そうなんだ!一夜漬けだったけど50点とれたんだ。
一夜漬けだって!見損なった。
次は、一夜漬みたいな運任せはやめて!
・・・はい。次は頑張ります。
この会話のように、「ほぼあたっているけど、完璧な正解ではない」という意味合いで使います。
「例文」中らずと雖も遠からず(悪い例・良い例)
「中らずと雖も遠からず」の例文を見てみましょう。まず悪い文からです。
あともう少し右なら、的を射抜けたのに。中らずと雖も遠からずだな
的に当てるというイメージが先行してしまっていますね。的の距離のことを意味する言葉ではないですよね。
もう一度確認しましょう。「中らずと雖も遠からず」の意味は、「ほぼあたってるけど、完璧な正解ではない」という意味でしたね。
円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)に内田康夫氏の文章を引用して、例文をのっけているところがあったので。それを引用してみましょう
ふん、見たようなことを言いよる。けど、正直言うて当たらずと雖も遠からじ、というところやね 内田康夫『華の下にて』(一九九五)
円満宇二郎編『故事成語を知る辞典』(小学館、二〇一八)p5より引用
この様に「間違っていないけでど、完璧ではない」時に使う言葉です。
ちなみに「遠からじ」の「じ」は「~しないだろう」という意味です。
「類義語」惜しい答え
類義語まで広げてみましょう。
和田利政『故事ことわざ名言名句実用辞典』(主婦と生活社、一九九六)によると二つありました。一つは、「中らぬまでも外れざりけれ」で「中らずと雖も遠からず」とほぼ同じな意味が、字面から伝わりますよね。
なので、今回は、解説を省きました。焦点を当てるのは「正鵠を失わず」です。「「正鵠を失わず」」は、加藤常見・水上静夫『中国故事成語辞典【新訂版】(角川小辞典20)』(角川書店、一九八三)によると、意味としては「的をはずさないこと」です。
では、なぜその様な意味になるのでしょうか?
同書によれば、「正鵠(せいこく)」は弓の的の真ん中の黒星(黒くてまるい印)の事であるとしています。また「「正」は布張りの的の黒星で、「鵠」は皮張りの的の黒星ともいう」と書かれています。
「それを失わない」と言うのは、的の中心を外さずに黒星を射抜くことという意味になると書かれています。そこから物事の核心を外さないで、物事をきっちり抑えている事をいうと指摘しています。
由来部分を覗いていてみましょう。今回は白文は省略しました。
【書き下し】
孔子ハク、「射ル者ハ何を以テカ射、何ヲ以テカ聴ク。声二循ヒテ発シ、発シテ正鵠ヲ失ワザル者ハ、唯ダ賢者カ」ト。(礼記・謝義四十六)
加藤常見・水上静夫『中国故事成語辞典【新訂版】(角川小辞典20)』(角川書店、昭和五十八)より引用
【現代語訳】
孔子先生は言った、「矢を射る者はなんで射、聴くのか。音楽の音に従って矢を放ち、放って的の真ん中をはずさない者は、定めし賢者だけだろうか、そうだ」と。(礼記・謝義四十六)
加藤常見・水上静夫『中国故事成語辞典【新訂版】(角川小辞典20)』(角川書店、昭和五十八)より引用
となっています。それでは、例文を作ったので見てみましょう。
「正鵠を失わず」の例文
先生に「このままだと赤点だぞ」と脅されて一点差で何とか回避。あの時は言い過ぎだと思ったけど、先生の言葉は、正鵠を失っていなかったな。
「英語例文」解釈①
小西友七(監)・岸野英治(編)『ウィズダム和英辞典(第二版)』(三省堂、二〇一二)より引用した「中らずと雖も遠からず」例文を英文解釈してわかりやすくしました。早速見ていきましょう。
① Your guess is almost right.
小西友七(監)・岸野英治(編)『ウィズダム和英辞典(第二版)』(三省堂、二〇一二)より引用
続きを見てみましょう。
全訳をだすと「あなたの憶測はほとんど正しい」となります。
「英語例文」解釈②
もう一つ「中らずと雖も遠からず」の例文があったので紹介します。
②That`s a near guess.
小西友七(監)・岸野英治(編)『ウィズダム和英辞典(第二版)』(三省堂、二〇一二)より引用
いろんなものがあってその中のどれでもいいから一つという事になります。
≪参考≫田中茂範『表現英文法[増補改訂版]』(コスモピア、二〇一五)
直訳すると「それは近い憶測です」となります。少し詳しくみると近い憶測、つまり憶測に近いという意味になるの、ほぼあっているという意味になりますね。
「まとめ」中らずと雖も遠からず
「中らずと雖も遠からず」どうだったでしょうか?
もう一度意味を確認しましょう。
「中らずと雖も遠からず」
意味:答えには近いけど、完璧な正解ではない
この様な意味でしたね。
ことわざを覚えることも大切ですが、そのもとになった由来を見ると教養が高まると思いますし、現代人にも言える大切なことが学べると思います。
今回の由来では「家族を大切に扱うべき」だという教えが出てきましたね。振り返ったときに、本当に家族を大切に出来ているでしょうか?
今一度考える必要がありますね。家族を大切出来る人は、その心を周りの人に伝えられるといいですね。
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