巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)の意味とは? ことわざの使い方や英文、類義語を徹底解説!

巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)
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「巧遅は拙速に如かず」(こうちはせっそくにしかず) ということわざを
聞いたことはありますか?

一般的に、「いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない」というたとえとして使われています。

「巧遅は拙速に如かず」「由来」には、2つの説があるようです。それは「巧遅は拙速に如かず」の出典しゅってんをどれにするのか辞書によって違っていました。どちらも、先人の、人々に対する温かい思いと知恵がつまっています。楽しみながら、一緒に学んでいきましょう。

本記事では、巧遅こうち拙速せっそくかず」という言葉の意味や類義語、使い方、英文まで徹底解説し、2つの由来についても、深堀りしていきます。

それでは、さっそく始めましょう!

読み方 巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)
ローマ字 Kochi wa sessoku ni shikazu
意味 いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない
使い方 制限がある中で成果を求められている時
英文訳 Done is better than perfect. (マーク・ザッカーバーグ)
「完璧を目指すよりまず終わらせろ」
類義語 巧遅拙速/拙速
目次

巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず) とは

 

巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)
まず、語句の意味を確認しましょう。

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巧遅こうちは 物事をするのに巧みではあるが、出来上がりが遅いこと。出来ばえはすぐれているが、仕上がりまでの時間がかかること。

拙速せっそくは へたではあるが、できあがりの早いこと。できはよくないが、仕事が早いこと。

かずは   およばない。かなわない。
(例:百聞ひゃくぶん一見いっけんかず)

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もう語句の意味だけで、「巧遅は拙速に如かず」の意味は、「いかに良くても遅いことは、多少おとっていても速いことにはおよばない」ということがわかりますね。

「由来」『文章軌範ぶんしょうきはん』か 『孫子そんし』か

冒頭ぼうとうでも触れていますが、巧遅こうち拙速せっそくかず」「由来」には、2つの説があるようです。それは「巧遅は拙速に如かず」の出典しゅってんをどれにするのか辞書によって違っています。それでは、その2つの由来をご紹介します。

由来 1 文章軌範ぶんしょうきはん有字集ゆうじしゅう 小序しょうじょ』の場合

 

巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)
文章軌範ぶんしょうきはん有字集ゆうじしゅう 小序しょうじょを出典としている辞書

  • デジタル大辞泉
  • 精選版 日本国語大辞典
  • goo辞書

文章軌範ぶんしょうきはん』とは

謝枋得しゃぼうとく(生1226〜没1289) という中国 南宋なんそう文人ぶんじん* で、政治家が編纂した全7巻の文章読本ぶんしょうどくほんです。

文人 : 幅広い知識があり、優れた文章を書く人〉

読本*とくほんとは、読みやすいようにやさしく書かれた入門書や解説書のことで、『文章軌範ぶんしょうきはん』は、科挙 (かきよ) の作文の際の受験参考書として作られました。

読本: 前になにもつかない場合は、”とくほん” と読むのが一般的〉

科挙かきょとは、中国で598〜1905年、即ちずいからしんの時代まで、約1300年間にわたって行われた官僚かんりょう登用試験です。

韓愈 (かんゆ) ・柳宗元 (りゅうそうげん) ら、唐・宋の名文家*めいぶんかの文を中心に納められていて、元~明代に広く読まれ,日本でも江戸中期以後愛読されています。

名文家: 優れた文章を書く名人〉

文章軌範ぶんしょうきはん』で、模範もはんとされる文章は、韓愈 (かんゆ) ・柳宗元 (りゅうそうげん) ら提唱ていしょうした文体で、簡潔で雄健*ゆうけんな調子で、考えをそのまま表現した古代の文章を理想としています。

雄建 : 力強く勢いがあるさま〉

文章軌範ぶんしょうきはん』に、掲載けいさいされている文章は高級官吏かんり登用の科挙かきょに際し、科目作文の模範となるべきものを謝枋得(しやぼうとく) が選び出したもので、『文章軌範』とは、俗にいう受験参考書・模範文例集であり、「科挙」受験のための参考書ということになります。

 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』参照

 

[jin_icon_bulb color=”#e9546b” size=”30px”]  豆知識

謝枋得 (しやぼうとく) は「文章軌範ぶんしょうきはん」全7巻の各巻の名前に、それぞれ侯王将相有種乎という漢字を1文字ずつ当てています。左から巻之一 侯字集・巻之二 王字集というふうになります。

侯王将相有種乎は「こうおうしょうしょうしゅあらんや」 と読みます。

王侯、将軍宰相さいしょうになるのは家系血統によるのではなく、努力次第でなれるという意味です。

文章軌範ぶんしょうきはん』とは、中国南宋において、官僚登用試験である科挙の受験者の合格をサポートするために作成された本だということですね。

それでは、その『文章軌範』の中で 「巧遅は拙速に如かず」が出てくる部分を見てみましょう。巻之五である有字集ゆうじしゅう小序しょうじょという部分に書かれています。

[jin-iconbox02]小序 短い前書き

謝枋得(しゃぼうとく)自身が書いた 『第5巻有字集』に対する説明文

[/jin-iconbox02]

『文章軌範』巻之五 有字集 小序

此集皆謹厳簡潔之文
場屋中、日晷有限、巧遅者不如

漢文ですね。
書き下し文に直しましょう。

此集皆謹厳簡潔之文

書き下し文  : 此()の集の文章は皆(みな)、謹厳(きんげん)簡潔(かんけつ)の文なり。

意味 : この巻に集められている文章は、全て慎み深く、表現が簡単で的を得て無駄がない文である。

いよいよ、「巧遅は拙速に如かず」の部分に入って行きます。

場屋中、日晷有限、巧遅者不如

書き下し文  : 場屋(じょうおく)(試験場)中には、日晷(にっき)(時間)に限り有り、巧遅(なる者)は拙速に如かず。

意味 : 試験の時は、時間に限りがあるから、時間をかけて巧妙こうみょうな文を書く人は、少々つたない文であっても、短時間で書ける人に及ばない。

[chat face=”panda.jpg” name=”パンダさん” align=”right
” border=”gray” bg=”none”] 親切な試験対策の参考書ですね。
試験では時間に限りがあるよ。頑張って!
ということですね。
[/chat]

由来 2『孫子・作戦』の場合

 

孫子

『孫子・作戦』を出典としている辞書

  • 故事ことわざ辞典

『孫子・作戦』とは

孫子とは、中国,春秋しゅんじゅう時代の軍略家ぐんりゃくかで、孫子があらわした著書の題名でもあります。 孫子という人物については,春秋時代,呉の闔閭 (こうりょ 前 515496) に仕えた名将孫武そんぶ,あるいは,戦国時代,せいの軍師であった孫ぴん (4世紀) のどちらかといわれています。

「兵は国の大事,死生の地,存亡の道」*とする立場から,国策の決定,将軍の選任,行軍,輸送,その他作戦,戦闘の全般にわたって,格調高い文章で,簡潔に要点を説き,絶えず主動的位置を制して,戦わずに勝つことを主としており、また思想的な裏づけもあります。古来,作戦の聖典として尊重されているだけでなく,現代では、一般社会の競争の場においての教訓として、ビジネスの場でも考え方の拠り所となっています。

戦争は国家の大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。よく考えねばならないと説いています。〉

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 参照

 

[jin_icon_bulb color=”#e9546b” size=”30px”]  豆知識

『孫子』 の考え方の特徴

『孫子』以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かったようですが 孫子は戦争の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知り、勝利を得るための指針を理論化しています。

  • 非好戦的ひこうせんてき – 戦争を簡単に起こすことや、長期戦による国力消耗をいましめる。
  • 現実主義緻密ちみつな観察眼に基づき、戦争の様々な様相を区別し、それに対応した記述を行う。
  • 主導権の重視主導権を握って変幻自在に戦う。

Wikipedia 参照

[chat face=”panda1.jpg” name=”パンダさん” align=”left” border=”gray” bg=”none”] 孫子が考えた作戦、気になりますね。[/chat]

 

それでは、その『孫子』の中で 「巧遅は拙速に如かず」の由来であるとされる部分を見てみましょう。こちらでは、「拙速」という語句はでてきますが、「巧遅」という語句は使用されていません。『孫子』の兵法第2章である『作戦篇』の中に書かれています。

[jin-iconbox02]作戦篇 『孫子』の兵法第2章

全13編の第2章で戦争準備計画について述べられている
[/jin-iconbox02]

『孫子・作戦篇』

故兵聞拙速、未睹巧之久

また漢文ですね。
書き下し文に直しましょう。

故兵聞拙速、未睹巧之久

書き下し文  : 「故に兵は拙速を聞く、いまこうひさしきざるなり」

意味戦争には最低限の目的だけを達成する短期決戦が有効なことはあっても、完全勝利を目指し、多くの目的を叶えようとする長期戦が有効だったことはない。

[chat face=”panda.jpg” name=”パンダさん” align=”right” border=”gray” bg=”none] どうしてこういう意味になるのかな。 [/chat]

 

『孫子・作戦篇』の内容をもう少し詳しく見てみましょう。
[box03 title=”戦争は長期化を避け、速戦即決 “]そもそも戦争では、軍の装備を整えるだけでも、莫大な費用を要する。必要な人数を集め、戦車や武具・武器を用立て兵糧や飼い葉も十分集めなければならない。それでいて、ようやく出征に漕ぎつけたところで対陣が長引けば、費用がさらにかさむだけでなく、将兵の疲弊も大変なもとのなる。それによって国の財政も破綻しかねない。それを見た周辺諸国から攻め入れられないとも限らない。このように疲弊してしまうと、どんなに知恵のある者を登用しても挽回することはできない。長期戦は絶対に不可。戦うのであれば、速戦即決しかない。そもそも、戦争が長引いて国家に利益などあったためしが無い。だから、軍隊を運用することの弊害を知り尽くしている者でなければ、その利点も知ることはできない。

『孫子・作戦篇』現代語訳抜粋 [/box03]
[chat face=”panda1.jpg” name=”パンダさん” align=”left” border=”gray” bg=”none”] 戦争を 長引かせてはいけない理由が、具体的に述べられていますね。[/chat]

 

[jin_icon_bulb color=”#e9546b” size=”21px”]ここであなたに質問です。
『孫子・作戦篇』における「拙速」な「もの」はなんでしょうか。

「作戦」でしょうか、拙い作戦となると、短期決戦でも負けてしまいますね。たくさんの軍費を使い、準備して、拙い作戦で出征することはしないでしょう。『孫子・作戦篇』では、「拙速」なものは「勝利」でしょう。データから導き出した効果的な作戦を用いて、「国が疲弊しないように、短期決戦で勝利するために、最低限の目的だけを達成するための拙い勝利を目指す。完全勝利を目指して長く戦うことが有効だったことはないから」だということですね。

もう一度、『孫子・作戦篇』の出典とされる部分を読んでみましょう。

「兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧の久しきをざるなり」

意味戦争には最低限の目的だけを達成する短期決戦が有効なことはあっても、完全勝利を目指し、多くの目的を叶えようとする長期戦が有効だったことはない。

[chat face=”panda.jpg” name=”パンダさん” align=”right” border=”gray” bg=”none] なるほどですね。 [/chat]

 

[jin_icon_bookmark color=”#e9546b” size=”18px”]  「兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧の久しきをざるなり」の意味は『春秋戦国時代 最強の兵法家 孫子』という
そーたさんのブログを参考にさせて頂いています。
書籍やブログ、辞書などを調べてきましたが、そーたさんのブログは、わかりやすくて、納得の内容で、筆者にとって1番心に響く記事でした。見つけた時は本当にうれしくなりました。そーたさん、ありがとうございます。もし、あなたが 孫子に興味をお持ちになりましたら是非訪れてみてください。https://sonshi-heihou.com

 

「意味」 いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない

「巧遅は拙速に如かず」(こうちはせっそくにしかず) ということわざの意味は、「いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない」ということです。

なんだかあいまいな雰囲気がありますね。何が良くて、何が劣っているというのでしょう。この記事をここまで読み進めることができたあなたなら、もうわかりますね。

何が良くて、何が劣っているかは、「巧遅は拙速に如かず」ということわざが使われている場面によるからです。

[jin-iconbox02]巧遅拙速なもの!

『文章軌範・有字集 小序』 試験の解答
『孫子・作戦篇』勝利の規模や出来栄え
[/jin-iconbox02]

「ことわざのイメージ」

「いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない」ことをいろいろ考えてイメージしてみましょう。

 

「使い方」制限がある中で成果を求められている時

 

[chat face=”naruzou.png” name=”ためになるぞう” align=”left” border=”blue” bg=”none” style=””]今年の祭りの提灯ちょうちんの準備はどうなっておるかな?[/chat]

[chat face=”obaasan_face.png” name=”ためになるこ” align=”right” border=”green” bg=”none” style=””]提灯職人の孫兵衛さんが、今、一所懸命に励んでくれていますよ。とは言うものの、今から100張りの提灯に龍の絵を描いて間に合わせるのは無理難題と言ってますよ。[/chat]

[chat face=”naruzou.png” name=”ためになるぞう” align=”left” border=”blue” bg=”none” style=””]それなら、提灯に描く龍の絵を、蛇の絵に変更しようじゃないか。蛇の絵なら一筆書きじゃろ。こういう時は、「巧遅は拙速に如かず」じゃ。これなら祭りに間に合うじゃろう。[/chat]

[chat face=”obaasan_face.png” name=”ためになるこ” align=”right” border=”green” bg=”none” style=””]やれやれ。はいはい。[/chat]

 

 

「例文」自分のことに関して自分で使う時

それでは、例文を使って「巧遅は拙速に如かず」の使い方を練習しましょう。

「巧遅は拙速に如かず」だから、大雑把おおざっぱにやってしまおう。

[jin_icon_unlike color=”#e9546b” size=”25px”]Point  由来の意味から考えると、拙速というのは、手を抜くことではありませんね。時間や条件に成約がある中で、戦略として、最善ではないけども、次善の策(その次に良いと思われる策)を取ることです。科挙の試験でも拙速だからといって、手を抜くと合格出来ないでしょう。

「巧遅は拙速に如かず」とはいえ、その職人は納期に間に合わせるために、(自分で)拙速な仕上がりになったと言っていたが、とても見事な出来栄えだった。

[jin_icon_like color=”blue” size=”25px”]Point 普段十分に積み重ねた努力があったからこそ、その時に合わせた次善の策を選択することができるということが想像できますね。「拙速」か「巧遅」かと二者択一の判断を迫られる場面で、「拙速」を選択した場合、求められるレベルで完了できることが重要です。

文学作品の中でも使われている「巧遅」や「拙速」を使った表現を見てみましょう。

「百部も二百部も仕上げねば勘定に合わぬ事になったので、巧遅よりも拙速という事に変じたのである、拙速……粗雑でも早いがよい……これが製本技術の低下で、従来の一千部乃至二三千部位の製本料は旧価のままでありながら、拙速に手馴れた職工共はヤハリ廉価な円本同様の仕上げをするのである……」

■宮武外骨  一円本流行の害毒と其裏面談より抜粋

 

「類義語」巧遅は拙速に如かず 1つ紹介

 

[jin_icon_star color=”green” size=”18px”] 巧遅拙速 (こうちせっそく)

四文字熟語の巧遅拙速や、巧遅拙速を文章の中でばらばらに使ったり、または拙速だけが使われる場面があります。「拙速」という言葉を、単独で、他人のことに使った場合には、批判的な意味合いとなるので、注意が必要です。

 

「対義語」巧遅は拙速に如かず 1つ紹介

 

[jin_icon_star color=”green” size=”18px”] 急がば回れ (いそがばまわれ)

「急がば回れ」は、危険な近道ではなく安全確実な遠回りを選択したほうが、かえって早く目的を達成できるという意味です。

 

「英文」巧遅は拙速に如かず 2つ紹介

facebook1

[jin-iconbox02]
Done is better than perfect.
(マーク・ザッカーバーグ)
ハーバード大学在学中にFacebookを立ち上げたアメリカのプログラマーで実業家

[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] Done : 完了した
[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] A is better than B : Aのほうが Bより良い

意味 : 完璧であることより、まず終わらせることが重要だ。

[/jin-iconbox02]

[jin-iconbox02]it’s better to be rough and ready than slow and elaborate.

[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] rough and ready : 荒いけれども準備が整っていること
[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] slow and elaborate : 入念に仕上げて遅いこと

意味 : 入念で遅い仕上がりよりも、荒くても準備が整っていることのほうが重要だ。
[/jin-iconbox02]

まとめ

「巧遅は拙速に如かず」は、読み解くのになかなか骨の折れることわざでしたね。お疲れさまでした。

それではポイントをまとめましょう。

「巧遅は拙速に如かず」は、「いかに良くても遅いことは、多少劣っていても速いことには及ばない」ことですが、使われている文脈の中で、何が良くて、何が劣っていることを意味しているのかを考える必要があることを覚えておきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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