「粋が身を食う」(すいがみをくう) ということわざを聞いたことはありますか?
遊里や花柳界などの事情に詳しくて、
もてはやされ得意になっている人は、
やがて深入りし身を滅ぼしてしまうという戒めです。
なんだか別世界のことのような気もしますね。
「粋が身を食う」は「江戸いろはかるた」の「す」の札です。楽しみながら、一緒に学んでいきましょう。
本記事では、「粋が身を食う」という言葉の意味や類義語、使い方など徹底解説していきます。
読み方 | 粋が身を食う(すいがみをくう) |
---|---|
ローマ字 | Sui ga mi wo ku |
意味 | 遊里や花柳界などの事情に詳しくて、もてはやされ得意になっている人は、やがて深入りし身を滅ぼしてしまうという戒め。 |
使い方 | 本文を忘れて 遊びの世界に深入りしているとき |
英文訳 | Playing the dandy ruins a man. (ダンディを演じていると身を滅ぼす) |
類義語 | 芸は身の仇 |
粋が身を食う(すいがみをくう) とは
「由来」『江戸いろはかるた』の「す」の札
「いろはるた」とは
お正月の子どもの遊びの一つ
- 「いろは」47字
- 最後に「京」
の字を加え、
これらを頭文字とした
- 字札48枚
- 絵札48枚
計96枚を1組にしたものです。
「いろは」48文字をそれぞれ句の始めに詠み込んで教訓的な諺(ことわざ)、譬(たとえ)を札にしています。
(「尾張かるた」は「京」の札がなく、いろは47枚です。)
「いろはかるた」は関西で発祥し、後に江戸に移って流行したと言われています。
- 「江戸いろは」
- 「上方いろは」
- 「尾張かるた」
などがあり、地方によってかるたの文句に違いがあります。
■日本大百科全書参照
[chat face=”pokkuri1.jpg” name=ぽっくりちゃん align=”left” border=”gray” bg=”none”] 「いろは」って、最後まで言えしまへん。 [/chat]
「いろはかるた」の頭文字になっている「いろは歌」についてみてみましょう。
手習いのはじめに仮名を覚えるため異なった音の仮名を集めて意味をなす歌です。
いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす
漢字を当てはめると少しわかりやすくなります。
〈色は匂へど散りぬるを,我が世誰ぞ常ならむ
有為の奥山今日越えて 浅き夢見じ,酔ひもせず〉
作者は不明で、弘法大師空海が創ったという説もあります。
「いろはうた」は、簡単に言うと、
「無常観」(世の中は常に一定ではないということ)を表しています。
[jin_icon_bulb color=”#e9546b” size=”21px”] 豆知識
「いろはうた」に込められた暗号
「いろはうた」を7文字 1行として区切り(1行目は「いろはにほへと」、2行目は「ちりぬるをわか」となりますね)、各行の7文字目だけをつなげると「咎(とが)なくて死す」となります。
このことから、「いろはうた」は、
冤罪で亡くなった人(柿本人麻呂だともいわれます)の恨みの暗号が込められたうたであるという所説あり。
[chat face=”pokkuri.jpg” name=ぽっくりちゃん align=”left” border=”gray” bg=”none”] ちょっと怖おしたなぁ。 [/chat]
現在のわたしたちは、かなを覚えるのに「あいうえお」を使っていますね。
「いろはうた」は、いつ頃使われていたのでしょうか。
「滋賀大学の国語教科書展の資料」によりますと、
寺子屋で用いられていた教材は、「いろはうた」でした。
それが、明治にさまざまな経緯を経て、
「あいうえお」に変わっていったということです。
「粋が身を食う」は「江戸いろはかるた」の「す」の札ですから、
「いろは歌」では何番目にあたるでしょうか。
そうです、一番最後に「す」がありましたね。
ということは、『江戸いろはかるた』では「京」の札が最後ですから、
最後から2番目の札になります。
『江戸いろはかるた』は「犬も歩けば棒に当たる」で始まるため、
「犬棒かるた」とも呼ばれています。
それでは、『江戸いろはかるた』の「札」を少しご紹介しましょう。
「い」 犬も歩けば棒にあたる
「ろ」 論より証拠
「は」 花より団子
「に」 憎まれっ子世に憚る
「ほ」 骨折り損のくたびれ儲け
「へ」 屁をひって尻つぼめる
「と」 年寄りの冷や水
馴染みのあることわざが並んでいますね。
それでは、途中は飛ばして
「ゑひもせす京」の「札」をみていきましょう。
「ゑ」 縁は異なもの味なもの
「ひ」 貧乏暇なし
「も」 門前の小僧習わぬ経を読む
「せ」 背に腹はかえられぬ
「す」 粋は身を食う
「京」 京の夢大阪の夢
「粋が身を食う」の由来は『江戸いろはかるた』の「す」の札でした。
[box06 title=”あわせて読みたい”]
本ブログ『ことわざのナルゾウ』では、「粋が身を食う」の他にも「いろはるた」の札になっている諺を解説しています。
「いろはるた」に興味をお持ちになりましたら、
「た」の札 「旅は道連れ世は情け」の意味とは?
「な」の札 「習わぬ経は読めぬ」の意味とは?
も訪れてみてください。[/box06]
「意味」遊里や花柳界などの事情に詳しくて、もてはやされ得意になっている人は、やがて深入りし身を滅ぼしてしまうという戒め
「粋が身を食う」(すいがみをくう) ということわざの意味は、遊里や花柳界などの事情に詳しくて、もてはやされ得意になっている人は、やがて深入りし身を滅ぼしてしまうという戒めです。
このことわざの意味をより良く理解するために、
まずは言葉の意味を知ることが必要です。
キーポイントになっている言葉の意味を、順に紹介していきます。
[jin-iconbox02]遊里と花柳界の言葉の意味と由来
花柳界とは、芸者・遊女の社会。遊里。花柳の巷。
「花柳」は中国から伝わった言葉で、
- 艶やかな赤い花
- 鮮やかな緑の柳
- 色とりどりな華やかな世界
を指しています。
中国では遊女などがいる地域を
柳港花街や花街柳港と称していました。
日本では略した「花柳」の語が広まって、
芸者や遊女、また遊里を指し、
その世界を「花柳界」と呼んでいます。
現代では遊郭が無くなったことなどから、主に芸妓(芸者)の世界を指して「花柳界」といい、のちに遊女の同義語となっています。
江戸時代の遊廓は代表的な娯楽の場であり、文化の発信地でもありました。上級の遊女(芸娼)は太夫や花魁などと呼ばれ、富裕な町人や、武家・公家をお客としていました。このため上級の遊女は、
芸事に秀で、文学などの教養が必要とされていました。
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[jin-iconbox02]現代の花柳界はどんなところ?
色町・花街 (はなまち・かがい)などといわれますが、基本的には、お座敷を提供する待合・料理を提供する料理屋・芸者が所属する置屋の3業種から成り立つ世界のことを言います。
現在では、厳密にこれら3業種が分かれてはいませんが、
料理を食べ、酒に酔い、芸妓さんと一緒にお座敷遊びを楽しむ…
こんな世界の総称と考えて良いでしょう。
■静岡商工会議所 静岡伝統芸能振興会 HPより
[/jin-iconbox02]
「粋が身を食う」ということわざでは、「粋」という漢字を「いき」ではなく、「すい」と読んでいます。
「すい」と「いき」の内容に大差はないとする説もあるようですが、
せっかくなので、「すい」と「いき」について調べてみましょう。
西(上方)の美意識である「粋(すい)」
西の「粋(すい)」とは、茶道、華道、踊り等の文化芸術、或いは花柳界のしきたりに極めて精通すること。
そして、その道を極めた人を
- 粋人(すいじん)
- 通人(つうじん)(江戸では)
と呼びます。
西の「粋(すい)」は、恋愛や装飾などにおいて、突き詰められたピュアな結果をもたらし、恋愛なら心中を選んだり、伝統技術が結集された絢爛豪華な振袖の着物を生む美意識で、字のごとく純粋の「粋(すい)」です。
東(江戸)の心意気「粋(いき)」
もともとは「意気」と書き、
「心ばえ、気合い」などをいいましたが、
様々な意味を持つようになり、
精神だけでなく、
衣装風俗にも使われるようになります。
幕府が贅沢禁止法、いわゆる奢侈禁止令を発令し、
質素倹約が強制されていた江戸では
縦縞や格子などの地味な柄、
地味ながらも技がきいた小紋などが好まれ、
「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」
といった茶色や鼠色などの渋い色と合わせ、
どう上手く着こなすかが「粋」とされました。
恋愛では、
粋(いき)の心を持った夫婦以外の江戸っ子の男女の間なら、
突き放さず突き詰めず、
精神的な好意の域を出ないので、
心中事件が起こらなかったそうです。
よって、歌舞伎・浄瑠璃の心中物は西(上方)での話です。
「粋(すい)」と「粋(いき)」の共通の意味
遊里や花柳界の事情に通じていること。
「粋が身を食う」(すいがみをくう) ということわざの意味は、
遊里や花柳界などの事情に詳しくて、もてはやされ得意になっている人は
深入りし身を滅ぼしてしまうという戒めです。
「粋(すい)」と「粋(いき)」には、西(上方)と東(江戸)の文化の違いによって、意味に違いがありましたね。
しかし違いはあっても、
- 「すい」
- 「いき」
の「心」が必要なようです。
花柳界のおもてなしを楽しむための心構えを調べてみましょう。
現代の花街においても、お客様にも役割があるようですよ。
花街のおもてなしとお客の役割
花街のおもてなしは、芸妓や舞妓の芸やお座敷遊びなど、客も参加しながら宴席を和ませる独特の文化です。
- 芸妓
- 舞妓
- 料理などの手配
- 座敷のしつらえ
など、お客の好みや利用目的に応じたおもてなしを提供するお茶屋、
舞妓らを住まわせ、芸事やしきたりを教えるとともに
、要請に応じてお茶屋などに派遣する置屋、
宴席の料理を提供する料理屋や仕出し屋など、
それらが協働して花街のおもてなし文化を支えています。
お茶屋の一見さんお断りといった慣行も、お客のことをよく知ることで,より高いレベルのおもてなしを提供するためであり、おもてなしを受ける客も、花街の文化を支える一員として、お茶屋との信頼関係を築き、さらに、より深く芸を楽しむため、芸を理解し、芸の目利き役として芸妓や舞妓の成長を見守るという役割があり、伝統伎芸に対する見識を深めることも求められます。
■京都市文化市民局文化財保護課
京都をつなぐ無形文化遺産 HPより
もてなす側、もてなされるお客も
- 芸への理解
- 文学などの教養
- 人情の機微
- 男女関係について
よく理解していることが必須のようです。
従って、遊里や花柳界は、それらのことを理解している大人だけが楽しめる社交場なのでしょう。
そして、有料のおもてなしですから、
成功したお金持ちでないと通い続けることはできませんね。
「ことわざのイメージ」
遊里や花柳界に通って、さかんに褒められたり、厚遇されて、調子にのって思い上がっていると、知らないうちに、多額の出費を重ねて生活が立ち行かなくなるか、許されない恋愛にのめり込んで実生活が破綻すること。
「使い方」本文を忘れて 遊びの世界に深入りしているとき
本文:その人が本来尽くすべきつとめ。
[chat face=”naruzou.png” name=”ためになるぞう” align=”left” border=”blue” bg=”none” style=””]最近、八っつぁんが羽振りがいいそうじゃ。
それで頻繁に吉原に顔を出してるという噂じゃの。[/chat]
吉原: 吉原遊廓(よしわらゆうかく)とは
江戸幕府公認の遊廓
[chat face=”obaasan_face.png” name=”ためになるこ” align=”right” border=”green” bg=”none” style=””]羽振りがいいのはいいことですが。
吉原のことは、少々心配ですね。[/chat]
[chat face=”naruzou.png” name=”ためになるぞう” align=”left” border=”blue” bg=”none” style=””]吉原でもてはやされて「粋が身を食う」とならなければよいがの。[/chat]
[chat face=”obaasan_face.png” name=”ためになるこ” align=”right” border=”green” bg=”none” style=””]そうですね。家で可愛い奥さんと子ども達が待ってますよ。[/chat]
「例文」遊里や花柳界のように人情がからんで、感情が先走り、断れなくなる遊びには要注意!
いつもオシャレあの子は、洋服にお小遣いを全部使ってしまったらしいよ。「粋が身を食う」だよね。
[jin_icon_unlike color=”#e9546b” size=”25px”]Point 予算以上にお金を使ってしまったということですが、もてはやされたて得意になったり、人情がからんでいるわけではないので、「粋が身を食う」を使うには少し無理がありますね。
「粋が身を食う」というから、キャバクラに通うのはほどほどにね。
[jin_icon_like color=”blue” size=”25px”]Point 遊里や花柳界のように人情がからんで、
感情が先走り断れなくなる遊びは、
身を滅ぼすことになりかねないです。
「類義語」「粋が身を食う」1つ紹介
ここからは「粋が身を食う」の類義語を1つ解説していきます。
★ 芸は身の仇 (げいはみのあだ)
意味:習い覚えた芸のために返って身を誤ることがある
ここで使われている「芸」とは、花柳界などの遊びを指しています。花柳界の事情に詳しくなると身を滅ぼすことがあるという意味になります。
「対義語」「粋が身を食う」1つ紹介
★ 芸は身を助く (げいはみをたすく)
意味:身についた「技芸」があれば何かの折に役に立ち、生計を立てる元になる
「助く」は「助ける」の文語形。「芸は身を助ける」「芸が身を助ける」ともいいます。『江戸いろはかるた』の「け」の札の句。
ここで使われている「芸」とは、「粋が身を食う」と「芸は身の仇」で使われている「芸」とは違って、花柳界などの遊びのことではなく、
- 美術・工芸などの技術
- 歌舞・音曲などの芸能のこと
身に付けた技芸がいざというとき生計の支えになり助かる
趣味などで習得した芸が暮らしに困った時生活を支える一助となる
という意味です。
[box06 title=”あわせて読みたい”]芸は身を助く[/box06]
「英文」「粋が身を食う」1つ紹介
[jin-iconbox02]Playing the dandy ruins a man.
[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] Playing : 演じること
[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] dandy : 男性の服装や振る舞いが洗練されていること
[jin_icon_pencil color=”green” size=”18px”] ruin : 破滅させる ダメにする
意味 : ダンディを演じていると身を滅ぼす
[/jin-iconbox02]
まとめ
ポイントをまとめておさらいしましょう。
- 「粋が身を食う」とは、『江戸いろはかるた』の「す」の札。
- 遊里や花柳界などの事情に詳しくもてはやされ得意になっている人はやがて深入りし身を滅ぼしてしまうという戒め。
- 遊里や花柳界のように人情がからんで感情が先走り断れなくなる遊びは、深入りすると身を滅ぼすことになりかねません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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